CONTENTS

sponsored links

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています


色褪せない日々




「つっめてぇ〜!!」
放課後、西陽の射す高陵高校の中庭に、はしゃぎ声が響き渡る。
長いホースを伝って噴出した水が放物線を描く。
水しぶきは差し込んできた西陽によって虹を映し出していた。
キラキラと光る雫が2人に降り注ぐ。
「ここまで派手にやったの久しぶり〜楽しいっ〜!!なぁ〜?」
前髪からしたたり落ちる雫を振り払って諒が満面の笑みを浮べた。
「…お前ねぇ…。」
亮介はびっしょりと濡れたシャツを絞りながら呆れ返る。

諒は、底抜けに子供っぽいところがある。
今日もいきなり水をかけてきて…そこから、この救いようのない事態になった。
制服を着たままプールに飛び込んだと勘違いされてもおかしくない。
そのくらい自分も諒も全身びっしょりになっていた。
「ふぅ――…いいねぇ、夏は!!」
よっこいしょと掛け声をかけながらゆっくりと古びたベンチに腰を下ろした。
亮介も諒に続いて静かに隣に腰を下ろす。
「夏はいいけど、明日、制服どうするんだよ?こんなに濡らして。」
濡れたYシャツがべっとりと肌に張り付いて気持ちが悪い。
ズボンも水分を含んですっかり重たくなっていた。
「だぁ〜いじょうぶだって!すぐ乾きますよ。あ、それより亮介、寒くないよな?」
「うん。俺は平気。」
急にまともなコトを言って来る諒に少し戸惑いを覚える。
「そうですか。それはヨカッタ!」

…どう考えても腑に落ちない。
おかしい…絶対におかしい。何かの前触れ?
「…何だよ…?急に。」
妙にわざとらしい諒の口調が気になり、怪訝な顔で諒を睨む。
「いや、ホラ、亮介君に風邪をひかせたら、神原さんに怒られてしまうでしょ?」
そう解説しながら、にやりと笑った。

…嫌な予感…。

そう思った瞬間、どこから取り出したのか諒はラムネのビンを振りながら
ビンのふたを親指で半分ほど塞ぎ、こちらへ向けてきた…。
気がついたときには自分をめがけてラムネの中身が飛び出していた。
「うわっ!諒っ…お前っ!!!!」
「なはははは――っ我が名は“水かけ諒v”な〜んちって♪」
「…あ〜なんかすごく寒くなってきた。」
ラムネの甘い香りが亮介のベタベタになった体を包む。
…怒る気力も失せるよな…諒が相手じゃ…。
ホンットにガキなんだから。
まっ、一緒になって遊んでる俺も変らないのかな?
ビンの中に残ったラムネを飲み干して、中のビー玉を取り出そうと必死になってる諒を眺めながら、しみじみと自分たちのコトを考えた。

「馬鹿だなぁ…俺たち。」
「…そうですねぇ。」

亮介の言葉を聞いて、しばらく沈黙していた諒が目を伏せて苦笑した。
無事、取り出したビー玉をズボンのポッケにしまい込み、
すくっと立ち上がり、Yシャツを脱いで豪快に水を絞る。

「…楽しいことってさ、特別な事じゃなくってこういうちょっとしたことなのかな。」
仁王立ちになっている諒の背中を見上げながら亮介がふとつぶやいた。
「うん。こうやって馬鹿できる事が幸せだったりするんだろうな。きっと。」
「お前がいなかったら、俺、絶対こんなコトしないよ。」
「むむ…諒ちゃん、感謝されてるのかしら?それとも迷惑がられてる?」
「さぁね!!」

大人と子供の狭間――この微妙な時間が愛おしい。
水遊びなんて最後にしたのはいつだっただろうか?
子供にとって当たり前の事が、今の俺たちには特別で…大人になったらできないことも今ならまだ許されている。
そして、子供ながらに大人のフリをすることも。
俺たちに許された“自由”な時間。
今しかできない事…今だからできる事。
こいつと過ごすこの時間を大切にしたい。

「ねぇ、諒!今日、ビール買って帰ろうよ。」

子供になって遊んだ後は、大人のフリをしよう。



END

スポンサーサイト