CONTENTS

sponsored links

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています


Last love song      


ごめんね。
冴子さん…―。



「あ〜あ。形勢不利だと思いません?」
最終決戦も間近という日。
いつものごとく、六本木のマンションで打ち合わせをして冴子を麻布へ送り届ける途中だった。
「弱気な事言ってんじゃないわよ」
愚痴をこぼす諒にぴしゃりと厳しい言葉を浴びせる。
「弱気…ねぇ…弱気にもなりますって。さすがに。」
おそらく決着はつく。やっと長かった決戦に終止符を打つときが来たのだ。
それを目前にして今までのことを思い出していた。
「ねぇ、冴子さん。」
諒が突然足を止めて、冴子の方を振り返る。
いつも通りのあっけらかんとした表情で冴子の名前を呼ぶ。
二人を包む空気は穏やかで静か過ぎて、このまま夜の静寂に飲み込まれるのではないかと思われて怖かった。
そして、ゆっくりと諒が口を開く。
「もしも…もしも誰かが犠牲にならなきゃいけないとしたら、それは俺だからさ。」

戦力ギリギリでの戦い。
勝算が絶対的にあるとは言いがたい。
そんな思いからか、らしくもない言葉が淡々と綴られる。

――諒ちゃんが犠牲――?
あぁ…私、夢見てるんだ。
あの馬鹿がこんな弱気なこと言うわけがない。

「…わかってるでしょ?冴子さんも。俺は里見さんやきーさん、まして亮介なんかとは違うんですよ。」
斎伽の血を引く十九郎と希沙良。そして、中和者である亮介。
そんな中でイレギュラーな存在であるただ一人が水沢諒。
「…っ違わないわよ!!」
馬鹿みたい…夢なのになんでこんなにムキになってるんだろう…私。
「違うでしょ。どう考えても。俺はどこの馬の骨ともわからんのですよ?比べようがないでしょ。」
わかってる。わかってるけど…だから何?
私からすれば、確かに諒は他の誰とも違う別の存在。
だからこそ失いたくなんかない。
「…犠牲なんか出さなくたってなんとか…なんとかなるわよ。今までだってなんとかなってきたじゃない!」
「まぁ……ね。」
無理ですよ…冴子さん。
言葉の間に込められた沈黙がそう諭していた。
「なんなのよっ!そのあいまいな返事っ!しっかりしてよ!!」
弱気な諒に対して怒りが込み上げる。
「ねぇ…冴子さん…俺はですね、これでも少しは強くなったんですよ。
もう昔と同じ過ちを犯す事はないって、その確信だけはあるんです。
だから…だからね…守らせてよ?今度こそ。」

今度こそ…――。
強くなったから。
大切な人を守る力を手に入れたから。
この手で君を守らせて…?

諒のまっすぐな瞳で見つめられ、冴子は何も言えずにただ呆然と諒の言葉を聞き流していた。

私たちを守ってあなたはどこへ行くの?
そんな疑問がふと湧いた。

「冴子…?」
無言のままの冴子の顔を覗き込む。
どうしてこんなにリアルなんだろう。
諒の声も顔もすごくはっきりしてる…。
「だいたいねぇっ強くなったなら“犠牲”なんていらないでしょ!?」
覗き込んだ瞬間、おもいっきり怒鳴られ、思わずひょいと体をひいた。
次の瞬間、冴子はくるっと背中を向けて一言つぶやいた。
「…っ冗談じゃないわよっ!!」
“守りたい”なんて勝手すぎる。
誰も守って欲しいなんて思ってない。
一緒に生きていたいだけ。
同じ空の下で同じ光の中で生きていたいだけ。
行かないで…。
此処に居て。傍に。
「ねぇ、この戦いに勝てたら、忍に宣戦布告してもいいと思う?それとも駆け落ちする?俺、忍と同居はヤダからね?冴子さん?結婚したら2人だけで暮らそうね?」
背中を向けられ顔は見えない冴子に子供にするようにゆっくりと優しく語りかけた。
おそらくありえない未来のことを。淡々と話しつづける。
そして、ゆっくりと近づき、そっと冴子の肩を抱きしめ後ろからすっぽりと包み込む。

「この戦いで勝てたら」…勝テナカッタラ?
「結婚したら」…気が早すぎる…。
―――大丈夫。絶対戻ってくるよね?
ラーメン以外も作れるようにしなきゃ。
肉じゃがは・・・これから練習しておくから。
だから、帰ってきて。私のトコロに。


「ごめんね。冴子さん。」


一緒にいてあげられなくてごめんね。
でも世界で一番大事に想ってる。どこにいても。

冴子の耳元に低くかすれがちな声が響き、諒の腕に力がこもる。
しっかりとその温もりを忘れぬように。
強く強く全身で抱きしめる。
そして、冴子の背中で大きく1つ深呼吸をすると諒は冴子にかけていた手をほどき、
再び歩き出した。
肩にかかっていた諒の体重がそっと消えていくのと同時に、どうしようもないほどの喪失感を感じた。
――…こんな最後なら出逢わなければ良かった。
こんなに…こんなに好きなのに。
何も言えない。
こうなることを本当はどこかで予想してた。
だから、イヤだった。
予想通りの展開。
彼を引き止める力など持ち合わせていない…無力すぎる。
明日、彼は行ってしまうのだろう…遠くへ。
悲しい筈なのに何も感じない。
「諒っ…!!」
前方を歩く諒の背中に向かって叫んだ。
諒が不思議そうな顔をして振り返る。
「…明日、朝会えるかわからないから………いってらっしゃい。」
諒は、にっこり笑って手を振った。

いってらっしゃい。
もどってきてね。





END

スポンサーサイト