CONTENTS

sponsored links

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています


遠い日

 

「お天気雨ね」

太陽の光は差し込むのに、雨はしとしと静かに降り続く。

「次は?」

「んーと、札幌だったかな」

タオルで濡れた頭を面倒そうに拭きながら
窓際にだらしなく寄りかかった。

「人を何だと思ってるんだか。俺、今帰って来たばっかしよ?」

窓の外を眺めると、学生達が楽しそうに歩いて行く姿。

そこには自分が、そして自分が壊してしまった者達が、
手にするはずだった日常が広がっていて。
どうしようもない気持ちに襲われる。

「・・・元気にしてるかなぁ」

奪ってしまった日常は、どれほどの罪だろう。

「・・・あーあ」

そういえば誰かが言った。「大事なものなら取りに戻れ」だと?
どこに行けば取り戻せる?大切なものを。

・・・目の前に広がる道は、1本きりだというのに。

 

「人生、間違えたよなぁ」

「何言ってんだか」

「いてっ」

札幌行きのチケットが諒の額でペチッと音をたてた。

「流されすぎな気がする・・・」

チケットの手配主を思い浮かべて、大げさに溜め息を吐く。

「流されたって、間違えたって、いつかは行けばいいじゃない?行きたい所に。」

サラリと言う冴子に胡散臭そうな視線を投げてみても、彼女はまったく動じない。

「って・・・簡単に言うね」

・・・寄り道しすぎてしまったけれど、いつかはどこかに辿り着くのかなぁ。

ぼんやりと考えながら、濡れたタオルをソファに投げると
すかさず冴子が文句を言いながら拾い上げた。

「・・・行くの明日にすれば?」

思いがけない言葉に少しだけ驚いた顔をすると、
冴子は慌てて言葉を付け足した。

「ほら、雨だし」

そんなの何の理由にもならない事なんて、彼女もきっと分かっていて
それでもやっぱり、嬉しいと思うんだ。

「うーん、いいや行ってくる」

そんなに駄目な顔してたかな、とか一瞬考えてから
やっぱり玄関に向かった。

「・・・そう。・・・あ!帰りにバームクーヘン買って来て?
小樽の、ほら!前に食べたやつ。本店のじゃなきゃ嫌よ。」

「・・・俺、札幌行くって行ったよね?」

「食べたいの。買って来てね。絶対よ」

「ちゃんと帰って来てねー。って素直に言えばいいのに」

そんな言葉は聞こえないフリの彼女に、
少々乱暴に傘を押し付けられた。
聞こえないフリなんかしたって、一瞬うろたえた表情は
もちろん見逃さなかったけど。

”じゃあね”とドアを閉めて、さっきの冴子の顔を思い出す。
おかげでもう少し頑張れそうだ。
雨はまだ降っていて、止みそうにも無いけれど---。

 

end

 

inspired by 忘れ物/merengue

スポンサーサイト