CONTENTS

sponsored links

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています


「輪をかけた土星ばか」(諒冴)

バカにつける薬はないっていうけれど。
バカのさらに輪をかけたバカには、もう何の手立てもないのかしら。

「冴子さん、好き」

上野駅のど真ん中で、こんな恥ずかしい台詞をいきなり言って。
離れたくない、好きだよ冴子さん、なんて抱きしめるのよ。
往来の人に邪魔じゃないの。
こんな大きな駅なんだもの、知り合いの一人や二人歩いてるかもしれないじゃない。
こんな恥ずかしい場面を見られたらどうすればいいの。
嫁入り前の若い娘捕まえて、こんなことしてるんじゃないわよ!
(…このバカも私と同い年だけど)

「大丈夫、嫁の貰い手がなかったら、俺が引き受けてやるから」

だから、もう少しこうしてていいよね。

その断定的な口調は何。
私に意向を聞いてるようで、その実やりたい放題のその態度は何。
私が、断らないとでも思っているの?

「なに突然色事づいてるのよ、バカ!」

ここを通る皆が、諒のバカさ加減を知ればいい。
そんな気持ちで私は叫んだ。

バカバカバカ。
そうよ、水沢諒はバカに輪をかけた土星バカなんだから!

その声は、想像以上に大きかったみたい。

「…冴子さんって、だいたーん…」

私を抱きしめた格好のまま、ひゅーと口笛を小さく吹いたバカは。
皆が見てるよ、と私の耳元で小さく囁いた。

周囲からの視線を痛いくらいに感じる。
呆れたような眼差し、何か恥ずかしいものを見たような表情。
…わたしの心とまったく同じ顔が、私の視界に映る。

彼らと私が違うのは、通行人たちの呆れた眼差しの矛先に、私も含まれていること。
理不尽だわ!

「世に言うバカップルって奴ですね、俺たち」

ははは、と笑う目の前のバカの腕から強引に抜け出して。
私はキッと睨みつけると、全体重をかけて思いきり、その足を踏みつけて。

咄嗟に足を抱え込む諒をちらりと一瞥すると、踵を返してすたすたと改札を潜り抜けた。

バカにつける薬はないって言うけれど。
バカに輪をかけた土星バカには、何もしないわけにはいかない。

「冴子さーん」

改札の向こうから、よれよれと聞こえてくる、情けない声を耳に留めると。
いい薬よ、と私は小さく微笑んだ。

Fin.

---------------------
萌茶ログ

スポンサーサイト