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アーリーサマー


誰もいない。
先程まで居たはずのその場所には、自分以外誰もいなくなった。
風の無い、夏の午後は時間が止まった様で
ほんの少し、怖いと思う。

暑い日差しが照りつける公園のベンチに、
諒は行儀悪く寝転がった。
空になった向かいのベンチを見つめると、少しずつ湧いてくる実感。
――また1つ、この手で消してしまった。

 

「そんな所で寝てたら倒れるわよ」

「冴子居るから大丈夫」

「何また甘えた事言ってんのよ」

無理やり諒を起こすと、持っていた花柄の日傘を押し付けて
冴子も隣に腰を下ろした。

「あー重かったわ。ここから東京まで片道2時間よ?!」

訳の分からない文句を言いながら、
両手に抱えた高級そうな紙袋の中身を、大事そうに広げ始めた。

「何始める気ですか・・・」

「うるさいわね。・・・ちゃんと差してて!」

渋々と日傘を持ち直しながら、目の前に出される可愛らしい箱に、
思わず顔が緩んでしまった。
蓋を開けると「HAPPY BIRTHDAY」のプレート付きの小さいケーキ。
口の中で”あぁ、そうか”と呟いて、冴子を覗き込んだ。

「祝ってくれんの?もしかして」

「誕生日を理由に、ケーキが食べたかっただけよ。あんたはオマケ!」

済ました顔で言い返す冴子に、諒が含み笑いを浮かべた。

「ふーん。片道2時間?わざわざ?」

僅かに顔を赤くした冴子を満足気に眺めながら、
もう片方の手で器用に、冴子の傍らにある紅茶の缶を取り出した。

「あー、うまい」

「あ!ちょっとそれ!・・・人のお茶飲んだわね?!」

「あれ?俺のじゃないの?」

「図々しいわね。あんたのはこっちよ」

諒は差し出された派手なデザインの缶を、
嫌そうな顔で見つめた。

「・・・なんでオレンジ?なんで果汁10%?
せめて100パー・・・じゃなくて、甘い物にはお茶かコーヒーでしょ?!」

「うるさいわね。・・・ちょっと押し間違えただけじゃない」

「・・・」

「笑ったらケーキあげないわよ」

「イテテ・・・冴子さん、手加減無しなのね。」

笑いを堪える諒の腕をひと抓りすると、
予想通りの大げさな反応が帰って来て、冴子が呆れた顔を見せた。

「はいはい。で?明日帰るの?東京」

「いや、もう今日の夜帰ろうかと。あんまり長居するのも・・・ね」

寂しそうに笑う諒を見て、冴子が小さく溜息を吐いた。

 

「今回の仕事は・・・いい人ばっかりだったものね」

「ほんとにねぇ」

1ヶ月間だけの友達、その周りの人達。
向かいのベンチに座っていたはずの、昨日までの偽りの友を想う。
たった1ヶ月でも、情は生まれるもので。
偽って近づいた自分の生活と、今こうしている自分。
混ざり合った瞬間に――正体を見せた瞬間に、それは消えて無くなってしまう。

「どうせ俺の事なんか、すぐ忘れるよ」

今は誰も座っていないベンチを眺めて、呟いた。
時間は流れ続ける。
どうせみんな忘れて行くのだろう。

「どうせって言葉、好きじゃないわ」

振り向いた諒の目に映る彼女は、
相変わらず凛としていて、少し眩しかった。
・・・八月の日差しは、容赦なく照りつける。

「そうじゃない人もいるでしょう?」

大きな体に似合わない、花柄の日傘を持たされたまま、
不味いオレンジジュースをゴクリと飲み込んだ。
いつでも彼女は現実に引き戻す。
何か大切な物を思い出させてくれる様な気がして、
それが嬉しいのか怖いのか、自分でも判らずに
諒は情けない笑みを浮かべた。

「・・・」

曖昧な返事を返そうとして、思い留まる。
彼女には上辺だけの言葉なんて、何を言ってもきっとお見通しだ。

「・・・いただきます。」

「ちゃんと味わってよね」

「2時間だもんね。」

冴子に軽く睨まれながら、諒は嬉しそうに笑った。

誕生日がこんなにも嬉しいものだったなんて。
彼女には心の中で感謝しつつ、目の前のケーキを頬張った。

 

end

風にふかれて 

「How many roads musta man walk down
Before you call him a man?」
――友よ、答えは風に吹かれている。





「じーあんさぁーまいふれん、いんぶろーうぃんどうぃん・・・えーと・・・」
「何の歌?」
「うーん。なんだったっけかなー。」

緑色の玉を冴子に手渡して、また口ずさむ。

「でも、いい歌だった・・・気がする。・・・じーあんさぁー・・・うーん・・・」

屋上の冷たいコンクリートに座り込んで、動こうとしない諒に冴子が呆れて口を開いた。

「で?この寒ーい所にいつまでいるつもり?」

ちらりと腕時計に目を落とす。
今日のクリスマスの為に、何週間も前から目を付けていたカフェレストランは、
もう開店している時間だった。すでに予約でいっぱいかもしれない。
冴子を見上げて、諒が微かに眉をひそめる。

「先帰ってていいよ」

行儀悪く壁に持たれかかる諒を見て、文句を言おうとして止めた。

(あぁ・・・そうか・・・)

・・・動かないんじゃなくて”動けない”んだわ。







「はーうめにぃーろーどますたー・・・誰が教えてくれたんだっけなー。」


ブツブツ言いながら、乾いた空を見つめた。

この手でまた”ひとつ”消してしまった後は、
見るもの全てが色褪せる――。





+++++




「もう慣れてへっちゃら。」

見透かした様な冴子に何か言われる前に、防御策として諒が発したのはそんな言葉だった。

彼等の最後の叫びも。悲しい別れも。
慣れた。・・・慣れたつもりでいるしかない。
彼等への感情なんて・・・。

「何がへっちゃらよ。慣れたんじゃんくて麻痺してるって言うの。間違えないで。」

・・・途方に暮れた目で。
その場所から動けずにいる諒の隣に腰を下ろした。

「まだまだね」

その言葉に、諒が苦笑した。





「よかった。」

ぽつりと呟いた冴子の言葉は、12月の冷たい風に吹かれて消えた。
動けなくなる程の感情が彼にあることは、悲しい反面・・・嬉しかった。
・・・こんな感情に慣れてほしくはないから。

いつも馬鹿みたいな笑顔で帰ってくるから、忘れかけていた。・・・”斬る”という事。
怖くない訳がないのに。
――慣れてしまったのは・・・麻痺していたのは、自分の方かも知れない。




「すみませんねー。へなちょこで」

「そんなの、今さら言われなくても知ってたわ」

「あぁ、そうですかー」

さらりと答える冴子の手を掴まえて、
その冷たさに、彼女を随分待たせていた事を思い知った。



「あー、そうか。・・・今日行けない・・・かも。」

ごめんね。と小さく呟く諒に冴子が一瞬微笑んだ。

「・・・気持ち悪いわ」

「おまえねー、人がせっかく素直に言ってるのに気持ち悪いって!」

「あーあ。せっかくクリスマスなのにー」

悪戯っぽく不満気な言葉を吐いてみせる冴子に、諒が幸せそうに笑った。

「・・・でも、もうすぐいいもん見れるよ・・・ほら!」

見つめる先には広い空。
寒空が茜色に染まっていく。青と夕暮れの狭間。
凝った派手なイルミネーションよりも何倍も綺麗だと思った。

「感動でしょ?」

「・・・まぁまぁね」

得意げな諒に、冴子が少し悔しそうにそっけなく答えると、
繋いだ手を小さく握り返した。

今の自分に確かなものなど何も無いけれど。
握った掌、彼女の温かさは信じられる気がした。






『どれだけの道をあるいたら、1人の男として認められるのか?
何度見上げたら、青い空がみえるのか?
――The answer,my friend,is blowin'in the wind.』
(by Bob Dylan)


 

 

END

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