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心空



嘘をついた。

――”嫌い”だと。


それなのに。
軽くあしらって、いつでも余裕な顔して・・・ムカつくわ。
少しくらい、動揺してくれたっていいのに。
見透かした様なあの顔を、1度くらい崩してみたい。そう思うのは、我がままだろうか。
少しくらい、自分の言動に一喜一憂して欲しいのに。
そう。例えば"あの人"みたいに・・・。







ほら、また。
昼休みの中庭で、亮介と亜衣とランチを広げたベンチの斜め向こう側。
気付くとこっちを見てる。
目が合う・・・すぐに逸らす・・・。
その視線に気付いたのはいつからだっただろう?
ちょっと・・・格好いいなぁと思う。
クラスも名前も知らないその人に、少し胸が高鳴るのを感じて、冴子は慌てて意識を戻した。





「諒は?昨日帰って来たんでしょ?」

亮介の問いかけに、昨日の諒の余裕な顔を思い出してまた腹が立ってきた。

「知らないわよ。私、先にこっち帰って来たもの」

「あれ?私さっき会ったわよ。先生に呼び出されて職員室行ったみたい」

お弁当を広げながら、亜衣が冴子に目を向ける。

「・・・昨日は朝から来るって言ってたのに。どうせ起きれなかったんでしょ。」

「起こしてあげればよかったのに」

亜衣の笑みを含んだ言葉に、冴子は居心地悪くなって立ち上がった。

「・・・飲み物買ってくるわ!」




学校に来てるなら、顔くらい見せればいいのに。
無意識に職員室の位置を確認しながら
小走りで中庭を抜け、自動販売機の前まで来て立ち止まってしまった。

目の前では釣り銭切れランプが赤く光っている。
・・・手の中には1枚の千円札。
小さくため息をついて駄目だと判っていながらも、その千円を入れてみてしまう。
何度やっても無情にも戻ってくる千円札に、冴子が諦めかけた時。

 

チャリン。

 

硬貨を入れる音。

「・・・返さなくていいから。」

突然の行為に振り返ると、その生徒は一瞬、何か言いたげに冴子をまじまじと見た後
顔を赤くしてそれだけ言うと、足早に行ってしまった。

・・・あの人だ。
近くで見ると本当に格好いいなぁ。なんてぼんやり思う。
緊張していた自分に気づいて、少し・・・後ろめたい気分になった。









+++++









「あの・・・さっきはありがとう」

帰り際、偶然見つけた人物に思い切って声をかけた。

「あ・・・七瀬さん!」

嬉しそうな顔。
その表情に少し戸惑う。
だって・・・あのバカはこんな顔しない。

「今ちょっとお財布持って無くて・・・待っててもらえる?」

「ほんとに返してくれなくていいよ。・・・返してもらったらそれで終わりだろ?」

意味を理解しようとして、返答に詰まる。彼が持っている好意を知らないふりは出来なかった。
彼は困った冴子の表情に”ごめん”と小さく呟いた。

「七瀬さんが誰を見てるかなんて、わかってる。
ただ・・・気づいて欲しかっただけだから。」

彼は冴子の背後に目を止めて、
少しだけ哀しそうに笑うと、じゃあね、と手を振った。

 

去って行く寂しそうな後姿に、思わず駆け寄りそうになった足が止まる。
冴子の腕を掴まえる大きな手。

「・・・あのさぁ・・・勘弁してよ。」

情けない声に振り返ると諒の姿。

「・・・!いつから居たのよ?!」

驚きと少しの後ろめたさよりも、なぜか安堵感の方が大きかった。

「さぁねー」

ふて腐れた様にチラリと冴子を見ると、腕を掴む手を離して代わりに彼女の小さな手を掴まえた。

「はい。帰りますよー」

 

(あぁ。やっぱり。)

諒の顔を見たら改めて気づいてしまった。
判りきってる事なのに。
飾らなくても、ヘタな愛の言葉なんてなくても、一緒に居るほどに伝わる。




――穏やかな気持ちで満たされるのは、この人だから。

 

END

Escape(R&19)


「…水…沢…?」
十九郎は思いもよらぬところで、思いもよらぬ人物に遭遇した。
六本木ヒルズのノースタワーの喫煙所で、休憩中のサラリーマンに混じって煙草を吸っている水沢諒だった。
「あ…里見さん…。」
あまりにも自然にその場に溶け込んでいたせいか、一瞬、人違いかと思ったが、名前を呼び返されて、十九郎は目の前の人物が水沢だと認識した。

「ども。」
喫煙現場を目撃されたにも関わらず、悪びれた様子もなく、だらしなく笑っていた。
「驚いたな…こんなところで。」
十九郎は、呆れたように目を伏せると、煙草を口に咥えて、火をつけた。
「デート中ですか?」
「単なる買い物の付き合いだよ。」
「…さようですか。」
正直なところ、カマをかけるつもりで、聞いた質問にあっさりと答えられ、挙句、バナナ・リパブリックに連れを残して、エスケープ中だと説明する十九郎に、諒は拍子抜けしていた。
「水沢は?」
「俺は、お嬢様が来る前にニコチンタイムです。」
そう言って、日比谷線の出口の方向を指差した。
「大丈夫なのか?」
「えぇ。」
十九郎は、暗に臭いのことを指して、心配していたようだが、それほどヘビースモーカーな訳ではないし、会う前にシュシュっと口臭さえ消してしまえば問題ない。
多少、残り香が服や体に付いていようが、誤魔化す術はいくらでもある。
「水沢が吸うとはね…。」
「意外でした?」
「…どうかな。意外といえば、意外だけど、あまり意外でない気もするね。」
「不良息子なんでねぇ〜。」
諒は、平然と答えた。
「もしかして、周知の事実だったかな?」
「まさか見せられませんよ。こんなとこ。」
こんな自虐行為、見せたらなんて言われるか…。
胸いっぱいに煙を吸い込み、一気に吐き出した。
「…教育上、ヨロシクないので。」
お嬢様と亮介くんのね、と付け足した。
身体を蝕まれていく事に快感覚えてるなんて言えないし。
きっと、目の前にいるこの人は俺より快感感じてるんだろうけど。
「過保護だね。」
「里見さんほどじゃないですよ。」
「心外だな。」
「ま、教育上云々というのは、建前で、正直、皆さんうるさそうなので。」
「放っておいてはくれないだろうね。」
「えぇ。和泉だってそうでしょ?」
「昔はね。もう見捨てられたよ。」
「またまた。」
内心、切り捨てたのは、どっちだか…と諒は思ったが、口にはせず黙って飲み込んだ。
「アイツ等、似てますよね。うるさいところが。」
「言うね」
「あ、今のはオフレコで。」
十九郎が諒の失言を笑うと、諒は慌てて口止めをした。
すると、十九郎は、さも当然のように“全部だろ?”と聞き返してきた。
それに対して、諒は力なく笑い“助かります”と平伏した。
こういうとき、ものわかりが早くて、口が堅いのは有難い。

「―…しかし、残念だな。」
「え?」
「水沢には健全に育って欲しかったよ。」
「スミマセン。ご期待に添えなくて。」
「いや、あんまり汚して欲しくないだけだよ、俺は。」
十九郎は、主語を抜かした意味深な言葉をごく平然と呟いた。
「…何を?」
諒は思わず聞き返した。
しかし、返ってきた答えはあまりにも普通な答えだった。
「…肺を、だよ。」
十九郎は肺の奥深くに吸い込んだ煙と一緒に言葉を吐き出した。
諒は、腑に落ちない表情で十九郎を一瞥し、しばし間を空けた後、“お気遣い感謝します。”と他人行儀に返した。
そして、ポケットから携帯を取り出し、時間を確認すると火のついた煙草を近くにあった灰皿へ押し付けた。
「…じゃぁ、俺はそろそろ。お嬢様が到着してる頃なので。」
「あぁ。俺も戻るとするかな。」
「では…。」
「また。」


END

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