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春うらら 




今日は、ほか弁日和だ。

日本人の春は、やっぱ、コレに限る。
ほか弁片手に、桜の木の下で花見。
ほか弁=ほかほか弁当…安直でありきたりな名前だけど、シンプル・イズ・ザ・ベスト。
弁当屋さんのお姉さんもなかなか、好み。
ロングでウェーブかかってて、誰かさんを思い出させてくれる。
(今頃、何やってんのかな…。)
俺は、のり弁の上にのっかった、白身魚のフライを頬張りながらアイツのことを考える。
(…どうせ、忍んとこかな。)
生暖かくなった桜漬けを口にしながら、嫉妬する。
ほか弁で、唯一いただけないのは、漬物が温まる事だ。
まぁ、それはそれで、決して嫌いではないのだが…。

腰掛けたベンチの脇に弁当を置き、味噌汁のカップを両手で包み込むように抱える。
そこへ、ひらりと桜の花びらが滑り込んだ。
味噌汁の具と共に花びらがカップの中でゆらゆらと浮いている。
「あ〜…日本人で良かったァ…。」
俺は思わずつぶやいた。
(縁起いいんでないの?)
なんて思った瞬間、ぐらっと体が前のめりになった。
誰かに思い切り背中を押され、危うく味噌汁をひっくり返すところだったが、持ち前の反射神経のよさで、ほんの少し、こぼす程度で済んだ。
手にこぼれた味噌汁を舐めながら振り返ると、そこにいつものお嬢さん。
桜の花びらの指したのは、このことか…と、ぼんやりと思う。
(しかし…どうして、この人の家系は神出鬼没なんだろ…。)
そんなどうでもいい疑問が一瞬、頭を掠めた。
「アンタっ年寄り臭いわよッ!」
開口一番に俺は怒鳴られる。
久しぶりに見るセーラー服姿は、セーターもなくなって、すっかり春仕様だ。
やっぱ、春はいい。
夏はもっと好きだけどね。
「ちょっと!うんとかすんとか言ったらどうなの!?」
「何…お前、腹でも減ってんの?」
「…なんで、そういう質問になるのよ…。」
冴子は呆れ返って、溜息をついた。
「だって…怒ってるから…。」
「怒ってないわよ。」
「そ?」
諒は幼い子供のように頭をかしげながら、冴子の目を覗き込む。
冴子はそんな諒の顔をまともに見れず、目を閉じたまま、こくりと縦に首を振る。
「そだ。一緒に花見する?」
「仕事は?」
「ちゃんとしてますよ。」
「なら、いいけど。」
「もしかして、急かしに来たの?」
「違うわよ!迎えに来たの!!アンタがちんたら仕事してるから。」
「それって、つまり急かしに来たんじゃ……?」
しばし、沈黙。
「……やっぱり、あたし帰る。」
「あぁ―っ!嘘ですっ!ごめんなさいっ…どうぞ、お茶でも…。」
さっき、弁当屋で買った缶のお茶を差し出す。
冴子は一瞬、躊躇したものの缶を受け取り、ごくりと一口飲んで、再び、俺につき返した。
俺は黙って、缶を受け取り、そのまま自分の口へ運ぶ。
そして、一言。
「冴子さんと間接キスしちゃった〜。」
桜と、のり弁と、この一言。すべてがコテコテだ。
「諒ちゃんって、ホンットに馬鹿!」
で、冴子さんのいつものこの台詞。
困ったような、照れたような、そんな冴子の顔がたまんない。
春っていいね…――。




END

教えて里見さん。


某月某日。

東京都内はどんよりとした雲に覆われていた。
そして、俺は偶然、里見さん出くわし、そのまま一緒に喫茶店に、男二人で入ることになった。もちろん、きーさん抜きで。

「里見さんって彼女とかいないんですか?」
以前から気になっていたコトを単刀直入に聞いてみた。
「…唐突だね。何か俺に相談したい事でもあるのかな?」
里見さんは、俺の不躾な質問にも関わらず、いつも通りの穏やかな顔で、落ち着いてコーヒーを口元へ運んだ。
「いや。そうじゃなくってお聞きしたい事が…。」
「何?」
「里見さんって…キスとかって…したことありますよね?もちろん…。」
「どうして?水沢は?」
(…やっぱり。)
この質問は里見さんにとっても聞いてはいけない部類のモノに違いない。
わかっては、いた。頭では…。
「…里見さん…話そらさないで答えてもらえます?」
「……。」
「どうなんですか?」
「一応、あるよ。」
しばらくの沈黙の後、やっと出てきたのはこの一言だった。
(…なんで、“一応”がつくんだ…。)
「じゃあ、最中に二人同時に息吸ったことあります?」
「……水沢、いったい何を聞きたいんだい?」
一瞬、里見さんの目がいつもより大きく開いたような気がした。
しかし、俺は見なかったことにして話を続けた。
「二人同時に息を吸うと真空状態になるって言うじゃないですか、あれの実のところどうなんですかねぇ…?」
「…水沢、自分で試してみたら?」
顎に手を当てて、ちらっと目で促された。
「俺が誰と試せって言うんですか!!」
俺は話をそらされてることにも気がつかず、里見さんの手にまんまと嵌った。
「いるだろ?一人。」
「…あいつが、んなコトやってくれると思いますか???」
「無理だね。」
「一生口きいて貰えなくなりますよ…。」
「じゃぁ、希沙良に聞いてみたら?」
「あ〜でも、き〜さんって以外と女性とは真面目にお付き合いしてそうだからな…。」
「…すると、俺は真面目に付き合っていない印象があるのかな?」
そう言って、にっこり笑った里見さんは心なしか怖かった。
「いや!そんなコトないですよ!ただ、里見さんって何でも知ってそうかな…って…。」
正直、誰が見ても苦しい言い逃れでしかなかったかもしれない…。
「そうか。水沢はそんな風に俺のコトを見てたのか。」
いつも通りの穏やかな口調で発したその言葉とは裏腹に、里見さんは、砂糖もミルクも入れていないはずのコーヒーをぐるぐるとかき回し始めた。
「違いますってば!!」
俺はかなり焦った。

本日の教訓:一対一で、里見さんに女性関係を聞いちゃいけない。

「この際、崎谷君か希沙良に実行してもらおう。」
「ハイ!?」
ヤバイと思ったが、時すでに遅し。
「言葉通りだよ。俺が何とかしてみるよ。」
「何とかって…里見さん……。」
(…怒ってるんだろうか…もしや…。)
「言っておくけど、俺はあくまで水沢に協力するだけだからね?」
そう言って、十九郎は念を押した。
「やっ、もうこの話はなかったことにしませんか…。」
楽しそうにコーヒーを口に運ぶ里見さんは、正直、怖かった。
「探究心は大事だよ?水沢…。」
「………。」
(やっぱり怒ってる…。)
言葉を失った諒とは対照的に、十九郎は満足気に一杯のコーヒーを飲み干して、カップを静かに机の上に置いた。




触らぬ神に祟りなし…。




END

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